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公共工事の繰越とは|繰越明許費と事故繰越の違い・工期延長との関係

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公共工事の繰越とは|繰越明許費と事故繰越の違い・工期延長との関係

公共工事の繰越とは、年度内に支出が終わらない工事の予算を、翌年度に持ち越して使えるようにする予算上の手続です。主な種類は、あらかじめ予算で「繰越明許費」として定めておき、計画・設計・気象・用地などの事由で年度内に終わらない経費を繰り越す「明許繰越」と、年度内に契約(支出負担行為)を済ませた後に避けがたい事故が起きて支出が終わらなかったものを繰り越す「事故繰越」の2つです。 繰越は発注者の予算の手続、工期延長は受注者と発注者の契約の手続で、別物です。工期が年度末を越えて延びるときは、受注者は工期変更の協議を、発注者は繰越の手続を、並行して進めることになります。

本記事では、明許繰越と事故繰越の違いを国(財政法)と地方公共団体(地方自治法)に分けて整理し、繰越が認められる事由、工期延長との関係、受注者が準備することと手続の期限をまとめます。

繰越制度とは

国も地方公共団体も、その年度の支出はその年度の収入でまかない、年度内に使い切れなかった予算は翌年度に使えないのが原則です(会計年度独立の原則。国は財政法第12条・第42条本文、地方は地方自治法第208条・第220条第3項本文)。

しかし公共工事は、天候、用地、地元調整、資材の調達などの外部の条件に左右され、年度内に終わらないことがあります。そのたびに予算を「不用」にして翌年度に予算を取り直すのは、かえって非効率です。そこで法律が例外として認めているのが繰越です。

明許繰越と事故繰越の違い(早見表)

項目明許繰越(繰越明許費)事故繰越
根拠(国)財政法第14条の3財政法第42条ただし書
根拠(地方公共団体)地方自治法第213条、同法施行令第146条地方自治法第220条第3項ただし書、同法施行令第150条第3項
予算での定め必要。あらかじめ繰越明許費として予算に定め、議決を経る(国は国会、地方は議会)不要(予算に計上しない)
対象その性質上または予算成立後の事由に基づき、年度内に支出を終わらない見込みのある経費年度内に支出負担行為(契約など)をし、避けがたい事故のため年度内に支出を終わらなかった経費
契約済みであること問わない(契約前の経費も対象になる)年度内に支出負担行為をしていることが要件
手続(国)財務大臣(財務局長等)の承認(財政法第43条)財務大臣(財務局長等)の承認(財政法第43条)
手続(地方公共団体)長が翌年度の5月31日までに繰越計算書を調製し、次の会議で議会に報告同左(施行令第146条を準用)
再繰越(国の取扱い)明許繰越した経費を、さらに事故繰越することはできる事故繰越した経費の再繰越はできない

国の場合、明許繰越は「国会の議決(予算で繰越明許費に定めること)」と「財務大臣の承認(実際に繰り越すこと)」の2段階です。議決だけで自動的に繰り越されるわけではありません。地方公共団体の場合は、繰越明許費を予算で定めて議会の議決を経ておき、実際に繰り越したら繰越計算書で議会に報告します。事故繰越は予算に定めがなくても行えますが、こちらも繰越計算書で議会に報告します。

国には、明許繰越のほかに、契約期間そのものを翌年度にまたがらせるための「繰越明許費に係る翌年度にわたる債務負担(翌債)」(財政法第43条の3)もあります。契約前に年度内に終わらないことがわかった工事では、翌債の承認を受けてから契約することがあります。

繰越が認められる事由

明許繰越の事由

国の予算では、繰越明許費の要求書に繰越の事由が示され、その事由が実際に起きていなければ明許繰越はできません。財務省の「繰越しガイドブック」では、公共事業の事由を次の6つに区分しています。

事由の区分記載例にある具体的な事由
計画に関する諸条件公害、埋蔵物、運搬路の選択、建物の配置、河川など関係機関との調整、埋蔵文化財の調査
設計に関する諸条件基礎工法、湧水処理
気象の関係豪雨、豪雪、風浪
用地の関係用地の価格交渉など
補償処理の困難家屋の移転、公害
資材の入手難セメント、労務者、災害による運搬路の被災、特注品などの納期遅延

予想外の地中障害物(埋蔵物)や、地質・湧水の条件が設計と違ったための設計変更は、計画・設計に関する諸条件として整理されるのが国の考え方です。地方公共団体の繰越明許費も、予算で定めた事業の範囲内で、性質上または予算成立後の事由により年度内に支出が終わらない見込みのものが対象です。どの事由で整理するかは発注者が判断します。

事故繰越の事由

事故繰越の「避けがたい事故」は法令に定義がなく、社会通念上避けがたいと判断されるものでなければなりません。財務省関東財務局の説明資料は、次のように整理しています。

区分内容
該当する例暴風・洪水・地震などの異常な天然現象、地権者の死亡、崩落事故による工事の中断、新型感染症の感染拡大など
該当しない例年度当初から発生が予見できたもの、事務処理上の不手際によるもの
時期の要件支出負担行為(契約)の後で、かつ当該年度中に発生したもの。前年度に起きた事象や契約前に起きた事象は該当しない

繰越と工期延長の違い

項目繰越工期延長(工期変更)
性質予算(支出)の年度をまたぐ処理契約上の工期の変更
手続の主体発注者(予算担当部局)発注者と受注者の協議
根拠財政法・地方自治法工事請負契約書(公共工事標準請負契約約款 第22条〜第24条)、土木工事共通仕様書 1-1-1-19
受注者の関与遅れの事由や残工事の資料を発注者に提供する理由を明示した書面で工期の延長を請求し、変更日数の算出根拠・変更工程表を添えて協議する

公共工事標準請負契約約款(以下「約款」)第22条では、受注者は、天候の不良、関連工事の調整への協力その他受注者の責めに帰すことができない事由により工期内に完成できないときは、理由を明示した書面で工期の延長変更を請求できるとされています。工期の変更は発注者と受注者が協議して定めます(第24条)。国土交通省の土木工事共通仕様書(令和8年3月)1-1-1-19 は、工期変更の協議の前に、工期変更協議の対象かどうかを監督職員と確認する「事前協議」を行い、対象となった事項について必要な変更日数の算出根拠、変更工程表などを添付して協議するよう定めています。

工期延長が必要でも、延びた工期が年度内に収まれば繰越は要りません。工期が年度末を越える場合は、工期変更と繰越の両方が必要になります。なお、当初から複数年度にわたる工期を前提に、債務負担行為で契約している工事(約款第40条の特則を使う契約)もあります。この場合は年度ごとの支払限度額や出来高予定額が契約で決まっているので、その見直しが必要かも発注者と確認します。

繰越手続の流れと期限

国の工事(直轄・補助)

手順内容期限・時期
(1) 繰越事由の発生年度内に支出が終わらないと判断した時点特になし
(2) 承認申請繰越計算書などを財務局等へ提出事由発生後、概ね1か月以内に速やかに。最終期限は原則として当該年度の3月31日
(3) 財務大臣(財務局長等)の承認審査のうえ承認3月31日の期限を過ぎてからの申請はできない
(4) 翌年度の執行繰り越した目的の範囲内で執行繰り越した予算を他の経費に充てることはできない

3月31日は「最終期限」であり、関東財務局の説明資料は、事由が生じたら期限にとらわれず事由発生後概ね1か月以内に申請するよう求めています。補助事業では、市町村などの事業実施部署から都道府県、財務局へと手続が流れるため、現場の遅れの情報が早く上がるほど手続に余裕が生まれます。

地方公共団体の工事

手順内容根拠
(1) 繰越明許費の設定当初予算または補正予算で繰越明許費を定め、議会の議決を経る地方自治法第213条
(2) 繰越翌年度に必要な金額を当該年度から繰り越す同法施行令第146条第1項
(3) 議会への報告翌年度の5月31日までに繰越計算書を調製し、次の会議で議会に報告同法施行令第146条第2項
事故繰越の場合予算での定めは不要。繰越計算書の調製と議会への報告は上と同じ同法第220条第3項ただし書、施行令第150条第3項

繰越明許費は予算として議会の議決が要るため、年度末に近い議会では間に合わないことがあります。国土交通省は公共工事の施工時期の平準化の取組「さしすせそ」の一つに「(す)速やかな繰越手続」を挙げ、年度内に支出が終わらない見込みになった段階で速やかに繰越手続を始めるよう地方公共団体に求めています。議会の日程や補正予算の時期は団体ごとに違うため、受注者は「いつまでに情報が要るか」を発注者に確認しておくのが確実です。

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受注者が準備すること

繰越の手続そのものは発注者が行いますが、判断の材料は現場から出ます。受注者が用意しておくと手続が早く進むものをまとめます。

準備するものポイント
遅れの事実の記録いつ、何が起きて、何日遅れたか。工事打合せ簿、工事日報、天候の記録、写真で裏付ける
事由の整理計画・設計・気象・用地・補償処理・資材入手のどれに当たるか、事故繰越に当たるかを発注者と確認する
変更工程表残工事の数量と、翌年度の完了見込みを示す
工期延長の請求書面約款第22条に基づき、理由を明示した書面で請求する
条件変更の通知設計図書と現場が違う場合は、約款第18条に基づき監督職員に通知し、確認を請求する
出来高の整理年度内の部分払の請求に備え、年度末時点の出来形を把握しておく

繰越・工期延長の判断チェックリスト

No.確認すること確認先・根拠
1遅れの原因は、受注者の責めに帰すことができない事由か約款第22条
2延びた工期は年度内に収まるか(収まらなければ繰越が必要)契約書の工期
3その工事の予算は繰越明許費に定められているか、定める予定があるか発注者に確認
4事故繰越に当たる場合、事故は契約後・当該年度中に起きたか関東財務局「歳出予算繰越制度」
5工期変更協議の対象か、監督職員と事前協議したか共通仕様書 1-1-1-19
6変更日数の算出根拠と変更工程表を用意したか共通仕様書 1-1-1-19
7発注者の繰越手続の締切(国は事由発生後概ね1か月以内・最終3月31日、地方は議会日程)に間に合う時期に報告したか関東財務局資料、発注者
8債務負担行為の契約なら、年度ごとの支払限度額・出来高予定額の見直しが必要か約款第40条

繰越できない場合・しない場合のリスク

リスク内容
工期内に完成できない約款第55条では、工期内に完成できないとき発注者は損害の賠償を請求できる。ただし受注者の責めに帰することができない事由による場合は適用しない
無理な工程年度内に収めるための突貫工事は、品質の低下や労働災害の危険を高める
完成を装う処理年度内に終わっていないのに繰越手続をとらず、完成したように処理するのは、法令上の繰越手続をとらない不適正な処理。財務局の説明資料も「未竣功工事」として問題点と防止策を挙げており、受注者も関与してはならない

約款第21条は、発注者が工期を延長・短縮するときは、工事に従事する人の労働時間その他の労働条件が適正に確保されるよう、やむを得ない事由で工事が困難と見込まれる日数などを考慮しなければならないとしています。遅れが見えたら、無理に年度内に詰め込むより、早めに工期変更と繰越を相談するのが基本です。

代金の支払いとの関係

支払い内容
前払金・中間前払金契約で定めた割合で受け取る。中間前払金は工期・出来高の要件を満たして認定を受けて請求する
部分払工事の完成前に、出来形部分などに相応する請負代金相当額の一定割合を請求できる(約款第38条。回数は契約で決める)
完成払い繰越後の翌年度に、完成検査を経て残金を受け取る

前払金・中間前払金の要件と手続は公共工事の前払金・中間前払金の請求方法、支払いの全体像は公共工事の代金支払いの記事で詳しく解説しています。

繰越を減らすための工夫

繰越はやむを得ない場合の制度です。できるだけ年度内に収まる工程を組み、遅れの兆しを早くつかむことが大切です。

(1) 着工時点で、梅雨・台風・積雪の時期を考慮した工程を組む

(2) 用地、地元調整、関係機関協議など、遅れやすい要素を工程表の上で見える化する

(3) 工程の進み具合を定期的に確認し、遅れが出たら早めに対策と報告をする

(4) 納期の長い資材は早めに手配する

工程の組み方は工程表の作り方、雨の多い時期の工程は梅雨の工事対策も参考にしてください。設計変更の協議の進め方は精算変更と設計変更協議の流れで解説しています。

よくある質問

Q. 繰越明許費と事故繰越の違いは何ですか。 A. 繰越明許費は、年度内に終わらない見込みのある経費をあらかじめ予算で定めて議決を経ておくもので、契約前の経費も対象になります。事故繰越は、予算での定めは要りませんが、年度内に契約(支出負担行為)を済ませた後に、避けがたい事故で年度内に支出が終わらなかった場合に限られます。

Q. 繰越が決まれば工期も自動的に延びますか。 A. 延びません。繰越は発注者の予算の手続で、契約上の工期は別に変更する必要があります。受注者は約款第22条に基づいて書面で工期の延長を請求し、変更日数の算出根拠と変更工程表を添えて協議します。

Q. 繰越の手続はいつまでにすればよいですか。 A. 国の工事では、繰越計算書の最終期限は原則として当該年度の3月31日で、事由が発生したら概ね1か月以内に申請するよう求められています。地方公共団体では、繰越明許費を予算で定める必要があるため、議会の日程に左右されます。受注者は遅れが見えた時点で発注者に報告し、必要な資料の締切を確認してください。

Q. 事故繰越をした予算を、さらに翌々年度に繰り越せますか。 A. 国の取扱いでは、事故繰越した経費の再繰越はできません。明許繰越した経費を、翌年度に避けがたい事故が起きたためさらに事故繰越することはできます。

Q. 地中障害物が見つかって工事が遅れたのは事故繰越になりますか。 A. 国の繰越しガイドブックでは、埋蔵物は明許繰越の事由「計画に関する諸条件」の例に挙げられています。どの区分で整理するかは発注者が判断するため、発見した時点で約款第18条に基づいて監督職員に通知し、事実の記録を残してください。

まとめ

  • 繰越は、年度内に支出が終わらない工事の予算を翌年度に持ち越す発注者の手続。主な種類は明許繰越(繰越明許費)と事故繰越
  • 明許繰越は予算での定めが必要で、契約前の経費も対象。事故繰越は予算での定め不要だが、契約後・当該年度中の避けがたい事故に限られる
  • 国は財務大臣(財務局長等)の承認、地方公共団体は翌年度5月31日までに繰越計算書を調製し議会へ報告
  • 繰越と工期延長は別の手続。工期が年度末を越えるなら両方が必要。受注者は書面で工期延長を請求し、変更工程表を添えて協議する
  • 遅れが見えたら早めに報告する。国の申請は事由発生後概ね1か月以内、最終期限は3月31日

出典・参考

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