ランサムウェア対策|土木工事会社が感染したら最初にやること
ランサムウェアに感染したら、まず感染したパソコンやサーバーの利用をやめてネットワークから切り離し、電源は切らずに状況を記録して、経営者に報告します。 そのうえで警察、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)、個人情報が漏れたおそれがあれば個人情報保護委員会へ届け出ます。予防の中心は、VPN機器などインターネットに面した機器の更新、パスワードの管理、ネットワークから切り離したバックアップの3つです。ランサムウェアとは、データを暗号化して使えなくし、元に戻す代わりに金銭を要求する不正プログラムのことです。
この記事では、警察庁の最新の統計、工期中の土木工事会社で止まる業務、感染したときの時系列の動き方、発注者への連絡、事前にやっておく対策をまとめます。
警察庁の統計で見るランサムウェア被害(令和7年)
警察庁の「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(令和8年3月)は、ランサムウェアの状況を次のようにまとめています。
| 項目 | 令和7年の状況 |
|---|---|
| 被害報告件数 | 226件。依然として高水準で推移 |
| 被害企業の規模 | 前年と同様に中小企業が約6割 |
| 業種 | 製造業が約4割。様々な業種で被害が確認されている |
| 復旧にかかった費用 | 総額1,000万円以上を要した組織の割合が全体の5割を超える |
| 復旧にかかった期間 | 1か月未満で復旧した組織は全体の5割強にとどまる |
| 侵入経路 | 被害組織へのアンケートではVPN機器が6割以上 |
| サイバー攻撃を想定したBCP | 策定済みの組織は約18% |
同じ資料は、攻撃者が未修正のぜい弱性、漏えいした認証情報や簡易なパスワード、設定不備などを悪用してネットワークに侵入し、内部を探索して重要データやバックアップを物色したうえで、データを盗み出してから暗号化すると説明しています。復旧を妨害するため、バックアップも一緒に暗号化される場合が多いとも書かれています。
その後に公表された「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(令和8年9月)では、令和8年上半期の被害報告件数は123件で、半期の件数として統計を取り始めた令和2年下半期以降で最多となりました。同じ版では、被害組織へのアンケートによる侵入経路はVPN機器が約5割とされており、数値は年版ごとに変わるので、引用するときはどの年の資料かを確かめてください。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織編の1位は「ランサム攻撃による被害」です。
工期中の土木工事会社で止まるもの
土木工事会社がランサムウェアの被害を受けると、事務だけでなく施工中の工事にも影響が出ます。
| 止まるもの | 具体例 | 影響 |
|---|---|---|
| 工事書類 | 施工計画書、打合せ簿、品質・出来形の記録 | 監督職員への提出や段階確認の準備が遅れる |
| 工事写真 | 電子小黒板つきの写真、写真管理ソフトのデータ | 撮り直せない施工途中の写真が失われるおそれ |
| 3次元データ | 3次元設計データ、ドローン測量の点群、ICT建機に渡すデータ | 出来形管理やICT施工の段取りがやり直しになる |
| 積算・入札 | 積算データ、入札書類 | 入札の締切に間に合わない |
| お金と人 | 会計、給与、作業員名簿 | 支払いの遅れ、個人情報の漏えいのおそれ |
特に工事写真と施工途中の記録は、後から作り直せません。点群や写真の保存の考え方はバックアップの記事、工事写真の管理は撮影計画書(写真管理計画)の書き方も参考にしてください。
感染したら最初にやること(時系列)
IPAの「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」(2026年6月)の流れに沿って、土木工事会社の場面に置き換えたものです。
| 時点 | やること | 注意点 |
|---|---|---|
| 気づいたらすぐ | 画面に脅迫文が出た、ファイルが開けない、拡張子が変わったなどに気づいたら、そのPCのLANケーブルを抜く・無線LANを切る | 電源を切る等の不用意な操作で記録を消さない |
| すぐ | 情報セキュリティの責任者と経営者に報告する | 誰に連絡するかは事前に決めておく |
| 当日 | 被害の範囲を確かめる(ほかのPC、NAS、クラウドの同期フォルダ、現場事務所の端末) | 同期しているクラウドのフォルダにも暗号化が広がることがある |
| 当日 | 最寄りの警察署またはサイバー犯罪相談窓口に通報・相談する | 警察庁は、初動対応の支援や復号ツールの案内ができる場合があるとしている。脅迫文の画面は写真に撮っておく |
| 当日〜数日 | IPAへ届け出る。個人情報が漏れたおそれがあれば個人情報保護委員会へ報告する | 報告の期限と方法は情報漏洩の記事を参照 |
| 数日 | 発注者・取引先・協力会社へ連絡する | 施工中の工事の情報が含まれるかを整理して伝える |
| 復旧 | 原因を調べて塞いだうえで、バックアップから戻す | 侵入口を塞がずに戻すと再び暗号化されるおそれ |
IPAの手引きは、ウイルスやランサムウェアに感染した場合はまず感染したパソコンやサーバーの利用を停止し、ネットワークから切り離すことが重要だとし、日頃から適切な方法でバックアップを取っておくことが被害を最小限に抑えるポイントだとしています。警察庁の「ランサムウェア被害防止対策」のページも、LANケーブルを抜く・無線をオフにするなどして感染した端末を隔離し、調査に必要なログが消えることがあるので電源は落とさないよう呼びかけています。
発注者への連絡
公共工事の受注者は、設計図書や発注者から預かった資料を扱っています。被害が施工中の工事のデータに及んだおそれがあるときは、契約書・特記仕様書の定めを確認し、監督職員に速やかに連絡します。IPAの手引きも、自社の受託案件に関連したインシデントの場合は委託元を含む関係事業者の名称を整理しておくべき事項に挙げています。
身代金について
警察庁は、攻撃者からの金銭の要求について、犯罪グループ等の活動資金となることが懸念されること、暗号化されたデータの復号が保証されるわけではないことを被害者に説明しているとしています。また、日本損害保険協会は、ランサムウェアの被害で支払った身代金はサイバー保険の対象にならないとしています。保険で補償される費用の範囲はサイバー保険の記事で整理します。
事前にやっておく対策
警察庁の資料は、基本的なセキュリティ対策の継続が最も重要だとして、ソフトウェア更新、パスワードの適切な管理、アクセス権限の適切な設定を挙げ、主要な侵入経路であるVPN機器などは速やかな対応が必要だとしています。そのうえで、オフラインバックアップ、ログの取得、訓練、警察との連携を被害の抑制に有効な管理体制として挙げています。
| No. | 対策 | 土木工事会社での具体例 |
|---|---|---|
| 1 | VPN機器・ルーターの更新 | 本社と営業所・現場をつなぐ機器のソフトウェアを更新し、保守業者と更新の担当を決める |
| 2 | 遠隔接続の多要素認証 | VPNやリモートデスクトップに二段階認証を設定する |
| 3 | パスワードの管理 | 初期パスワードの機器をなくし、使い回しをやめる(パスワード管理) |
| 4 | アクセス権限の整理 | 工事が終わった人・協力会社のアカウントを止める |
| 5 | ネットワークから切り離したバックアップ | 外付けの記憶装置はバックアップのときだけつなぐ |
| 6 | 端末側の対策 | ウイルス対策ソフトを最新に。必要に応じてEDRを検討する |
| 7 | 連絡先の一覧 | 経営者、保守業者、警察、IPA、保険会社、主な発注者の連絡先を紙でも保管する |
| 8 | 訓練 | 「月曜の朝、本社のファイルサーバーが開けない」想定で、誰が何をするかを確かめる |
サイバー攻撃を想定したBCPを足す
警察庁は、ランサムウェアによる暗号化は地震などの物理的災害とは被害の状況が異なり、調査・復旧作業や広報の在り方も違うため、サイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)を事前に準備する必要があるとしています。令和7年の版では、被害組織のうち策定済みは約18%でした。
災害協定や地震を想定したBCPを作っている土木工事会社は多いはずです。土木工事会社のBCPの作り方で作った計画に、次の項目を足すとサイバー攻撃にも使えるようになります。
| 足す項目 | 決めておくこと |
|---|---|
| 優先して戻す業務 | 施工中の工事の書類・写真、給与、支払いの順番 |
| 紙で回す手順 | システムが止まった間の日報・出面・写真の記録方法 |
| 復旧の担い手 | 保守業者、調査を頼む先の連絡先と契約 |
| 対外連絡 | 発注者・協力会社・取引先へ誰が連絡するか |
よくある質問
Q. 感染したPCの電源はすぐ切ったほうがよいですか。 A. IPAの手引きは、電源を切るなどの不用意な操作でシステム上に残された記録を消さないよう求めています。まずはLANケーブルを抜く、無線LANを切るなどでネットワークから切り離し、その後の対応は専門の窓口や保守業者に相談してください。
Q. 小さな会社でも狙われますか。 A. 警察庁の令和7年の統計では、被害企業の約6割が中小企業でした。攻撃者は侵入できる「隙」のある組織を探して攻撃するとされており、規模の大小は関係ありません。
Q. バックアップを取っていれば安心ですか。 A. ネットワークにつながったままのバックアップは、一緒に暗号化されることが多いとされています。バックアップのときだけつなぐ、別の場所にも保管するなど、切り離した状態のコピーを持つことが大切です。
まとめ
- 警察庁の令和7年の統計では、ランサムウェア被害は226件、中小企業が約6割、侵入経路はVPN機器が6割以上
- 感染したら、ネットワークから切り離し、電源は切らずに記録を残し、経営者・警察・IPAへ
- 工事写真や施工途中の記録は作り直せないので、切り離したバックアップを持つ
- 地震・水害のBCPに、サイバー攻撃の項目を足しておく
出典・参考
- 警察庁サイバー警察局「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」令和8年3月(特集Ⅱ ランサムウェアをめぐる脅威の情勢と警察の取組:被害報告件数、規模別・業種別、復旧期間と費用、侵入経路、BCPの策定状況、備え)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R7/R07_cyber_jousei.pdf - 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」2026年6月(検知・初動対応、報告・公表、事象ごとの対応のポイント)
https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html - IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」2026年1月29日(組織編)
https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html - 警察庁サイバー警察局「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」令和8年9月(ランサムウェアの被害報告件数)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R8kami/R08_kami_cyber_jousei.pdf - 警察庁「ランサムウェア被害防止対策」(被害に遭った場合の隔離、通報・相談、身代金の要求への考え方、バックアップ)
https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/ransom.html - 一般社団法人日本損害保険協会「企業のための保険ナビ サイバー保険」(身代金は対象外)
https://www.sonpo.or.jp/cyber-hoken/about/ - 政府広報オンライン「中小企業で被害多数 ランサムウェア」
https://www.gov-online.go.jp/useful/202506/video-298784.html
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