作業日報のデジタル化の進め方|土木の移行手順と項目早見表
土木工事の作業日報をデジタル化するには、①今の紙の日報の項目と使い道を洗い出す、②項目ごとに入力方式(選択式・数値・写真など)を決めた様式を作る、③1現場で紙と並行して試す、④承認と保存のルールを決めて全現場へ広げる、の順で進めます。 日報に始業・終業時刻を載せて労働時間の記録にも使う場合は、厚生労働省のガイドラインが原則とする「客観的な記録」との関係と、労働基準法第109条の保存期間(当分の間は3年間)を前提に設計しておく必要があります。
本記事では、紙からアプリへ移すときの手順、日報に載せる項目と入力方式の早見表、労働時間の記録として使うときの注意、公共工事の帳票との関係を整理します。日報そのものの書き方と記入例は工事日報の書き方|土木の記入例とテンプレート項目で解説しています。本文の法令・制度は、末尾の「出典・参考」に挙げた資料で確認したものです。
日報デジタル化の手順(全体像)
| 手順 | やること | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 1. 今の日報を棚卸しする | 紙の日報の項目を書き出し、それぞれ誰が何に使っているかを確かめる | 残す項目、やめる項目、他の書類から取れる項目 |
| 2. 様式と入力方式を決める | 項目ごとに選択式・数値・時刻・写真・自由記述のどれで入れるかを決める | 必須項目と任意項目、選択肢の一覧(工事名・工種・会社名) |
| 3. 労働時間の扱いを決める | 日報の時刻を労働時間の記録に使うか、別の仕組み(タイムカード等)で記録するかを決める | 客観的な記録との突き合わせ方、保存期間 |
| 4. 1現場で試す | 紙と並行して入力し、抜けや入力しにくい項目を洗い出す | 並行期間の終わりを判断する基準 |
| 5. 承認・保存のルールを決めて広げる | 誰がいつ確認・承認するか、修正の記録、保存先と保存期間を決める | 承認者、締め時刻、バックアップの方法 |
順番が大事なのは、ツールを先に選ぶと「アプリにある項目に合わせて日報を作り直す」ことになりやすいためです。先に項目と使い道を決めておくと、ツールの比較もしやすくなります。
手順1:今の日報を棚卸しする
紙の日報には、昔からの慣習で残っているだけの項目や、別の書類と重複している項目が混ざっていることがよくあります。デジタル化の前に、次の表のように項目ごとの使い道を書き出します。
| 確かめること | 見るポイント |
|---|---|
| その項目を誰が見ているか | 現場代理人、工事部長、事務(給与・原価)、元請・発注者への報告 |
| 何に使っているか | 工程管理、原価管理、給与計算、安全管理、発注者への報告 |
| 他の書類と重複していないか | 搬入伝票・納品書、作業員名簿、点検記録、工事写真 |
| 集計しているか | 月末に人工(にんく、作業員1人が1日働いた量のこと)や機械の稼働を集計しているか |
使い道のない項目は外し、集計している項目は数値で入れる形にすると、デジタル化の効果が出やすくなります。
手順2:日報に載せる項目と入力方式の早見表
土木工事 業務改善Naviが、日報の主な項目を「アプリでどう入れるか」「何に使うか」「関係する決まり」で整理した表です。自社の様式を作るときのたたき台にしてください。
| 項目 | 入力方式の例 | 主な使い道 | 関係する決まり・書類 |
|---|---|---|---|
| 日付・工事名 | 日付は自動、工事名は登録済みの一覧から選択 | 工事ごとの集計 | 社内の工事番号 |
| 天候・気温 | 選択式(晴・曇・雨・雪など)+数値 | 作業中止日の記録、工期の協議資料 | 発注者との打合せ簿 |
| 作業内容(工種) | 工種を選択+定型文、補足だけ自由記述 | 工程管理、出来高の把握 | 工程表、工事写真 |
| 施工数量 | 数値(単位は工種ごとに固定) | 出来高の集計、原価管理 | 実行予算 |
| 人員(会社別・職種別) | 会社と職種を選択+人数 | 原価管理、作業員の把握 | 作業員名簿 |
| 始業・終業時刻、休憩 | 時刻入力(労働時間の記録に使う場合) | 労働時間の把握、給与計算 | 労働時間の適正な把握のためのガイドライン、労働基準法第109条 |
| 使用機械 | 機械を選択+稼働時間・待機時間 | 原価管理、損料・リース料の確認 | リース契約、点検記録 |
| 使用材料 | 材料を選択+数量 | 原価管理、残数の把握 | 搬入伝票・納品書 |
| 作業開始前点検 | チェック欄(実施・異常の有無) | 点検の実施漏れの防止 | 労働安全衛生規則第170条(車両系建設機械)、第567条(足場) |
| 安全活動・ヒヤリハット | 選択式+自由記述 | 再発防止、安全ミーティングの題材 | 安全書類 |
| 写真 | スマートフォンで撮影して添付 | 状況の共有 | 写真管理基準に沿った工事写真は別に整理 |
| 指示・協議・特記事項 | 自由記述 | 設計変更・工期の協議の根拠 | 打合せ簿 |
入力方式を決めるときのコツ
- 選択式を基本にする:工事名・工種・会社名・機械名は一覧から選ぶ形にすると、表記ゆれが減り、あとで集計できます。
- 自由記述は「いつもと違うこと」に絞る:定型の作業は選択と数量で入れ、予定外の出来事や指示だけを文章で書く形にすると、入力の手間と読み手の負担が減ります。
- 数量の単位を固定する:同じ工種で「m」と「m²」が混ざると集計できません。工種ごとに単位を決めておきます。
- 写真は日報と工事写真を分けて考える:日報に付ける写真は状況共有用です。発注者に提出する工事写真は写真管理基準に沿って撮影・整理します(工事写真アプリの選び方)。
なお、足場の点検(悪天候や組立て・変更の後)は、点検の結果と点検者の氏名、補修などの措置の内容を記録し、足場を使う仕事が終わるまで保存することが労働安全衛生規則第567条第3項で決められています。日報のチェック欄だけで済ませず、この要件を満たす記録として残してください。
手順3:労働時間の記録として使う場合の注意
日報に始業・終業時刻を入れて、それを労働時間の記録としても使う会社は少なくありません。その場合は、次の決まりを前提に設計します。
| 決まり | 内容 | 日報の設計への影響 |
|---|---|---|
| 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省) | 使用者は労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録する。原則は使用者の現認か、タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間などの客観的な記録を基礎に確認する方法 | 日報の時刻は自己申告にあたるため、客観的な記録と照らし合わせる仕組みを考える |
| 同ガイドライン(自己申告制の場合の措置) | 自己申告で把握する場合は、対象者と管理者への十分な説明、必要に応じた実態調査と補正、申告の上限を設けるなど適正な申告を妨げる措置の禁止など | 入力できる時間に上限を設けない。入退場記録などと大きくずれたら確認する |
| 労働安全衛生法第66条の8の3、労働安全衛生規則第52条の7の3 | 事業者は、タイムカードによる記録、パソコン等の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法で労働時間の状況を把握し、その記録を作成して3年間保存するための措置を講じる | 記録の作成と3年間の保存を前提にする |
| 労働基準法第109条・第143条 | 賃金その他労働関係に関する重要な書類は5年間保存(当分の間は3年間) | 日報データを削除しない設定にし、保存期間を決める |
| 労働基準法施行規則第56条 | 保存期間の起算日は、賃金その他労働関係に関する重要な書類は「その完結の日」(賃金の支払期日の方が遅い場合はその日) | 工事の完了や給与の支払い時期を踏まえて削除の時期を決める |
| 労働基準法第108条、同施行規則第54条 | 賃金台帳には労働日数、労働時間数、時間外・休日・深夜の労働時間数などを記入する | 給与計算に使う時刻は、日報から集計できる形にする |
公共工事では、土木工事共通仕様書(案)1-1-1-16 に、公共事業労務費調査の対象になったときに正確な調査票を出せるよう、日頃から現場労働者の賃金時間管理を適切に行うことが書かれています。日報の時刻を給与や労務費の資料に使う場合は、なおさら正確さが求められます。
時間外労働の上限規制(2024年4月から建設業にも適用)については建設業の2024年問題とはで解説しています。
手順4:1現場で紙と並行して試す
いきなり全現場で紙をやめると、入力の抜けや操作の戸惑いがそのまま記録の欠落になります。まず1現場で、紙とアプリの両方に記入する期間を設けます。並行期間には、次の点を確かめます。
| 確かめること | 見るポイント |
|---|---|
| 入力の抜け | 紙にはあってアプリに入っていない項目がないか |
| 入力しにくい項目 | 選択肢が足りない、自由記述が長くなる、単位が合わない項目 |
| 入力のタイミング | 現場で当日中に入力できているか(事務所に戻らないと入れられない設計になっていないか) |
| 通信環境 | 電波の届きにくい現場で、オフラインで入力して後で送信できるか |
| 確認する側の手間 | 工事部長や事務が、必要な情報を探さずに見られるか |
| 集計 | 月末の人工・機械・材料の集計が、アプリのデータから作れるか |
並行期間の終わりは、「2週間」のように日数で決めるより、「上の項目で問題が出なくなったら」のように条件で決めると、無理のない切り替えになります。
手順5:承認・保存・共有のルールを決める
| 決めること | 例 |
|---|---|
| 締め時刻 | 当日の作業終了後に入力し、翌朝までに確認する |
| 確認・承認する人 | 工事部長など。不在時の代わりの人も決めておく |
| 修正のルール | 承認後に直すときは理由を残す。修正の履歴が残るツールを選ぶ |
| 保存先と保存期間 | 会社のアカウントで管理し、労働時間の記録に使う場合は上の保存期間を満たす |
| バックアップ | クラウドの障害や誤削除に備え、定期的に書き出す(データのバックアップ方法) |
| アカウント管理 | 退職者のアカウントを止める手順、共有パスワードを使わない |
| 個人のスマートフォンを使う場合 | 端末を紛失したときの連絡先と、ログアウト・アカウント停止の手順 |
公共工事の帳票との関係
社内の作業日報は、発注者に出す書類とは別のものです。ただ、日報のデータは発注者への報告の元になるため、関係を整理しておくと二度手間が減ります。
| 書類・仕組み | 共通仕様書の位置づけ | 日報との関係 |
|---|---|---|
| 工事履行報告書 | 1-1-1-28:契約書第11条に基づき監督職員に提出する | 日報の出来高・作業内容を集計すると作りやすい |
| 情報共有システム(ASP) | 1-1-1-27 10:監督職員と受注者の間の情報を電子的に交換・共有し、工事情報共有システム(ASP、インターネット経由で使うサービスのこと)を活用する。サービス提供者との契約は受注者が行う | 日報アプリとは別のシステム。打合せ簿などの工事帳票はASPで作成・提出する |
| 工事帳票の紙提出 | 1-1-1-2 25:情報共有システムで作成・提出した工事帳票は、別に紙で出力して提出しない | 社内の日報を紙に戻して発注者に出す必要はない |
国の直轄工事の場合の決まりです。都道府県・市町村の工事では、発注者ごとの仕様書や特記仕様書で確かめてください。情報共有システムを含む業務効率化の全体像は土木工事の業務効率化|すぐできる5つの方法と国の仕組みで紹介しています。
ツールの選び方
| 選択肢 | 向いている会社 | 確かめること |
|---|---|---|
| 表計算ソフト・フォーム(Googleフォーム、Excelなど) | まず費用をかけずに試したい | 集計の自動化、スマートフォンでの入力しやすさ、修正履歴 |
| 汎用の日報アプリ | 日報だけをデジタル化したい | 選択肢・単位の設定、オフライン入力、データの書き出し |
| 施工管理アプリ(工程・写真・原価と一体のもの) | 日報のデータを工程・原価管理にもつなげたい | 日報以外の機能を実際に使うか、既存の原価管理との連携 |
どれを選ぶ場合も、データを汎用の形式(CSVなど)で書き出せるかを確かめておくと、将来ツールを変えるときに過去の日報を失わずに済みます。費用は各サービスの公表している料金で比べてください。
移行前のチェックリスト
| No. | 確認すること | 確認先 |
|---|---|---|
| 1 | 今の日報の項目ごとに、使い道と使う人を書き出したか | 現場代理人、工事部長、事務 |
| 2 | 工事名・工種・会社名・機械名の選択肢の一覧を作ったか | 工事台帳、協力会社名簿 |
| 3 | 工種ごとの数量の単位を決めたか | 実行予算、工程表 |
| 4 | 日報の時刻を労働時間の記録に使うか、別に記録するかを決めたか | 労務担当、社会保険労務士 |
| 5 | 労働時間の記録に使う場合、客観的な記録との突き合わせ方を決めたか | 労務担当 |
| 6 | 保存期間と削除しない設定を確かめたか | ツールの設定 |
| 7 | 足場点検など法定の記録を、日報とは別に要件どおり残す形になっているか | 安全担当 |
| 8 | 電波の届きにくい現場でも入力できるか | 試行する現場 |
| 9 | 承認者・締め時刻・修正のルールを決めたか | 工事部長 |
| 10 | 試行する1現場と、並行期間を終える条件を決めたか | 社内の計画 |
よくある質問
日報アプリの記録だけで労働時間の記録として足りますか?
日報に本人が時刻を入れる方法は、ガイドラインでいう自己申告にあたります。ガイドラインは、原則として使用者の現認か、タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間などの客観的な記録を基礎に確認する方法を求めており、自己申告による場合は、十分な説明や必要に応じた実態調査と補正などの措置を講じることとしています。入退場の記録などと照らし合わせられる仕組みを用意しておくと安心です。具体的な運用は社会保険労務士や労働基準監督署に確認してください。
日報はいつまで保存すればよいですか?
日報を労働時間の記録として使う場合、労働基準法第109条により5年間(第143条の経過措置で当分の間は3年間)の保存が必要です。起算日は、賃金その他労働関係に関する重要な書類については「その完結の日」で、賃金の支払期日の方が遅い場合はその日です(同法施行規則第56条)。労働安全衛生規則第52条の7の3でも、労働時間の状況の記録は3年間保存するための措置が求められています。
紙の日報と並行する期間はどれくらいが目安ですか?
決まった日数はありません。入力の抜けがない、選択肢や単位に困る項目がない、集計がアプリのデータから作れる、といった条件を満たした時点で紙をやめると、無理なく切り替えられます。
公共工事では日報をASPで出す必要がありますか?
社内の作業日報は、発注者に出す書類ではありません。国の直轄工事では、工事打合せ簿などの工事帳票を情報共有システム(ASP)で作成・提出し、別に紙で出力して提出しないこととされています(土木工事共通仕様書(案)1-1-1-2)。どの帳票をASPで扱うかは発注者の指示に従ってください。
まとめ
- 進め方:今の日報の棚卸し、入力方式を決めた様式づくり、1現場での並行試行、承認・保存ルールの決定、全現場への展開の順で進める
- 様式:工事名・工種・会社名は選択式、数量は単位を固定、自由記述は予定外の出来事に絞る
- 労働時間:日報の時刻を労働時間の記録に使うなら、ガイドラインの客観的な記録との関係と、労基法第109条の保存期間(当分の間3年間)を前提にする
- 法定の記録:足場点検などは日報のチェック欄だけで済ませず、法令の要件どおりに記録・保存する
- 公共工事:日報と発注者への工事帳票は別物。直轄工事の工事帳票は情報共有システムで作成・提出する
出典・参考
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(4(1)始業・終業時刻の確認及び記録、(2)原則的な方法、(3)自己申告制の場合の措置、(4)賃金台帳の適正な調製、(5)労働時間の記録に関する書類の保存)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf - 労働基準法 第108条(賃金台帳)、第109条(記録の保存:5年間)、第143条(当分の間は3年間)(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 - 労働基準法施行規則 第54条(賃金台帳の記入事項)、第56条(記録の保存期間の起算日)(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023 - 労働安全衛生法 第66条の8の3(労働時間の状況の把握)(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057 - 労働安全衛生規則 第52条の7の3(労働時間の状況の把握の方法、記録の3年間保存)、第170条(車両系建設機械の作業開始前点検)、第567条(足場の点検、点検結果等の記録・保存)(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032 - 国土交通省「土木工事共通仕様書(案)令和8年3月」第1編 第1章 第1節 1-1-1-2 用語の定義(25. 情報共有システム)、1-1-1-16 調査・試験に対する協力(2. 公共事業労務費調査)、1-1-1-27 施工管理(10. 工事情報共有化)、1-1-1-28 履行報告
https://www.mlit.go.jp/tec/r08dobokukoujikyoutsuusiyousyo/honbun01_syo01_setsu01.html
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