新規入場者教育の法的根拠と動画で行うときの注意点|元請の義務
新規入場者教育は、法律の条文に名前がある教育ではなく、厚生労働省の「元方事業者による建設現場安全管理指針」で、関係請負人(下請)が新たに現場で作業に就く労働者に作業前に行い、元方事業者(元請)が場所・資料の提供等で援助し、実施状況の報告を受けて把握するものとされた教育です。 法律上の義務としては、雇い入れたとき・作業内容を変えたときの安全衛生教育(労働安全衛生法第59条)と、特定元方事業者が下請の行う教育を指導・援助する義務(同法第30条第1項第4号)が土台になります。動画で行う場合、厚生労働省のeラーニング通達は、雇入れ時等の教育について「法定の範囲を満たす内容」「受講した事実の確認」「質問を受け付けて答える体制」「実技は講師と同じ場所で対面」を求めています。
本記事では、新規入場者教育の法令・指針上の位置づけ(誰に何の義務があるか)と、教育を動画で行うときの注意点を整理します。教育の具体的な内容や当日の進め方、記録の書き方は新規入場者教育の内容と進め方で解説しています。本文の条文・通達の内容は、末尾の「出典・参考」で確認したものです。
早見表:新規入場者教育にかかわる義務と根拠
| 誰が | 何をするか | 根拠 | 性格 |
|---|---|---|---|
| 事業者(雇っている会社) | 雇い入れたとき、作業内容を変更したときに、従事する業務の安全衛生教育を行う | 労働安全衛生法第59条第1項・第2項、労働安全衛生規則第35条 | 法律上の義務(違反は50万円以下の罰金:同法第120条第1号) |
| 元方事業者(元請) | 下請やその作業従事者が法令に違反しないよう必要な指導を行い、違反があれば是正の指示をする | 労働安全衛生法第29条 | 法律上の義務 |
| 特定元方事業者(建設業などの元請) | 下請が行う労働者の安全衛生教育に対して指導・援助を行う | 労働安全衛生法第30条第1項第4号 | 法律上の義務 |
| 特定元方事業者 | 上の指導・援助として、教育を行う場所の提供、教育に使う資料の提供等を行う | 労働安全衛生規則第638条 | 法律上の義務(省令) |
| 元方事業者 | 新規入場者教育に必要な場所・資料の提供等の援助を行い、実施状況の報告を受けて把握する | 元方事業者による建設現場安全管理指針 第2の9 | 指針(通達) |
| 関係請負人(下請) | 労働者が現場で新たに作業に就く前に、現場の特性を踏まえた8項目を職長等から周知し、結果を元方事業者に報告する | 同指針 第2の14(8) | 指針(通達) |
特定元方事業者とは、建設業その他政令で定める業種(特定事業)を行う元方事業者のことです(労働安全衛生法第15条)。現場では「新規入場者教育=元請がやるもの」と受け取られがちですが、指針の組み立ては「教育するのは雇っている下請、元請はそれを援助して実施状況を把握する」です。実務では元請が教育の場を設けて一括で説明することも多く、その場合も下請が自分の労働者に教育した結果を元請が把握できる形にしておくことが、指針の趣旨に合います。
雇入れ時教育と新規入場者教育の違い
雇入れ時教育(法律上の義務)
労働安全衛生法第59条第1項は、事業者が労働者を雇い入れたときに、その労働者が従事する業務の安全衛生教育を行うことを義務づけています。同条第2項で、作業内容を変更したときも同様です。教える事項は労働安全衛生規則第35条第1項に次の8項目が定められており、このうち労働者が従事する業務の安全衛生に必要な事項を、遅滞なく教育します。
| 号 | 教育事項(労働安全衛生規則第35条第1項) |
|---|---|
| 1 | 機械等、原材料等の危険性または有害性と、取扱い方法 |
| 2 | 安全装置、有害物抑制装置または保護具の性能と、取扱い方法 |
| 3 | 作業手順 |
| 4 | 作業開始時の点検 |
| 5 | 業務に関して発生するおそれのある疾病の原因と予防 |
| 6 | 整理、整頓および清潔の保持 |
| 7 | 事故時等における応急措置と退避 |
| 8 | その他、業務に関する安全衛生のために必要な事項 |
同条第2項では、これらの事項について十分な知識・技能を持つと認められる労働者には、その事項の教育を省略できるとされています。
新規入場者教育(指針で示された現場ごとの教育)
雇入れ時教育は「会社に入ったとき」「仕事の内容が変わったとき」の教育です。一方、建設工事では同じ会社の同じ職種のままでも、現場が変われば混在作業の状況、危険箇所、避難の方法が変わります。そこで「元方事業者による建設現場安全管理指針」は、関係請負人が、労働者が建設現場で新たに作業に従事するときに、作業前にその現場の特性を踏まえて次の8項目を職長等から周知し、元方事業者に結果を報告することとしています。
| No. | 指針が示す周知事項(第2の14(8)) |
|---|---|
| ① | 元方事業者と関係請負人の労働者が混在して作業を行う場所の状況 |
| ② | 労働者に危険を生ずる箇所の状況(危険有害箇所と立入禁止区域) |
| ③ | 混在作業場所において行われる作業相互の関係 |
| ④ | 避難の方法 |
| ⑤ | 指揮命令系統 |
| ⑥ | 担当する作業内容と労働災害防止対策 |
| ⑦ | 安全衛生に関する規程 |
| ⑧ | 建設現場の安全衛生管理の基本方針、目標、その他基本的な労働災害防止対策を定めた計画 |
指針はこのほか、関係請負人に対し、新たに作業に従事する労働者の免許・資格の取得、特別教育・職長教育の受講の有無等を把握し、その者が作業に従事する前までに元方事業者へ通知すること(第2の14(3)b)も求めています。資格・特別教育の確認方法は建設業の特別教育一覧にまとめています。
元請(元方事業者)がやること
元請の役割は「下請の教育を援助し、実施状況を把握すること」です。法令と指針から整理すると次のとおりです。
| 項目 | 元請がやること | 根拠 |
|---|---|---|
| 場所の提供 | 詰所・休憩所など、教育を行う場所を用意する | 労働安全衛生規則第638条、指針 第2の9 |
| 資料の提供 | 現場の配置図、危険箇所、立入禁止区域、避難経路、緊急連絡先、安全衛生管理計画など、現場固有の資料を渡す | 同上 |
| 実施状況の把握 | 下請から教育の結果の報告を受け、誰がいつ教育を受けたかを把握する | 指針 第2の9 |
| 下請の評価 | 下請の安全管理状況等を評価するときに、新規入場者教育の実施状況にも留意する | 指針 第3の8 |
| 法令違反の指導 | 下請が雇入れ時教育等の法令の規定に違反しないよう指導し、違反があれば是正を指示する | 労働安全衛生法第29条 |
現場ごとに安全衛生責任者がいる場合、新規入場者教育の管理はその職務と重なります。安全衛生責任者の役割は安全衛生責任者とは、現場の安全衛生管理計画の書き方は施工計画書の安全衛生計画を参照してください。
教育を動画で行うときの注意点
厚生労働省のeラーニング通達の位置づけ
厚生労働省は「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」(令和3年1月25日、最終改正 令和8年9月2日)で、安全衛生教育をeラーニング等(インターネット等を使う通信制の教育)で行う場合の考え方を示しています。基本的な考え方は「eラーニング等で行う場合も、対面による方法と同等の教育効果を担保する」ことで、講習実施時には、法定の科目の範囲・教育時間・講師の要件を満たし、教本等の必要な教材を用い、受講者が受講した事実を適切に確認する必要がある、としています。
この通達の別表には「雇入れ時等の教育」(労働安全衛生法第59条第1項・第2項の教育)の欄があり、満たすべき要件が次のように示されています。
| 要件の項目 | 雇入れ時等の教育を動画等で行う場合の要件(通達の別表) |
|---|---|
| 内容 | 教育内容が労働安全衛生規則第35条第1項に定める範囲を満たすこと |
| 視聴時間の担保 | 受講していることを担保できること |
| 実技 | 実技教育は、講師と同一場所で対面により実施していること |
| 質問対応 | 受講者からの質問があった際に受け付け、回答できる体制があること |
新規入場者教育そのものは通達の別表に項目がありませんが、雇入れ時等の教育と重なる内容を動画で扱うなら、上の要件に合わせておくのが安全です。また、指針は新規入場者教育を「当該建設現場の特性を踏まえて」「職長等から周知する」としているため、全現場共通の動画だけで済ませず、現場固有の情報と職長等による確認の場を組み合わせることが前提になります。
動画にしやすい部分と対面で残す部分
指針の8項目と、通達の要件を踏まえた振り分けの考え方です(どこまで動画にするかは各社・各現場の判断です)。
| 内容 | 動画との相性 | 理由・注意点 |
|---|---|---|
| ⑦安全衛生に関する規程、⑧基本方針・目標・計画 | 動画にしやすい | 全現場共通の部分が多い。改訂したら動画も差し替える |
| ⑤指揮命令系統 | 動画+現場で補足 | 会社の体制は共通でも、現場の担当者名・連絡先は現場ごとに違う |
| ①混在作業場所の状況、③作業相互の関係 | 現場ごとに作る・説明する | 工程の進み方で変わる。古い動画のままにしない |
| ②危険箇所・立入禁止区域、④避難の方法 | 現場ごとに作る+現地で確認 | 配置図・写真で示したうえで、職長等が現地で場所を確かめさせる |
| ⑥担当する作業内容と災害防止対策 | 対面が基本 | 人によって作業が違う。作業手順書と合わせて職長等が説明する |
| 保護具の装着など実技を伴うもの | 対面 | 通達は雇入れ時等の教育の実技を講師と同一場所・対面としている |
作業手順書の作り方は土木工事の作業手順書の作り方で解説しています。
チェックリスト:新規入場者教育を動画で行う前に
| No. | 確認すること | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| 1 | 教育するのは誰(雇っている下請)で、元請は何を援助するか、役割を決めたか | 指針 第2の9・第2の14(8) |
| 2 | 動画の内容が、指針の8項目のうち扱う項目を漏れなくカバーしているか | 指針 第2の14(8) |
| 3 | 雇入れ時教育と兼ねる場合、労働安全衛生規則第35条第1項の事項のうち業務に必要なものを含むか | eラーニング通達 別表 |
| 4 | 現場固有の部分(配置図・危険箇所・避難経路・緊急連絡先)が今の現場の状態になっているか | 指針「当該建設現場の特性を踏まえて」 |
| 5 | 最後まで視聴したことを確かめる方法(立会い、視聴記録、確認テスト等)を決めたか | eラーニング通達「受講した事実を適切に確認」 |
| 6 | 視聴後に職長等が質問を受けて答える時間を設けたか | eラーニング通達 別表(質問対応) |
| 7 | 実技(保護具の装着等)を対面で行う段取りがあるか | eラーニング通達 別表(実技) |
| 8 | 危険箇所・立入禁止区域を現地で確認させる手順があるか | 指針 第2の14(8)② |
| 9 | 教育の結果(受講者・日時・内容・実施者)を元請に報告する様式を決めたか | 指針 第2の14(8)、第2の9 |
| 10 | 日本語の理解が十分でない人に、内容が伝わる手段(字幕、図・写真、通訳等)を用意したか | 教育の目的(内容が伝わること)から |
| 11 | 工程が進んで現場の状況が変わったときに動画を作り直す担当とタイミングを決めたか | 古い情報のままでは①〜④が実態と合わなくなる |
よくある質問
新規入場者教育は法律上の義務ですか?
「新規入場者教育」という名前の教育は、労働安全衛生法・規則の条文にはありません。厚生労働省の「元方事業者による建設現場安全管理指針」(通達)で示された教育です。ただし、雇い入れたとき・作業内容を変更したときの安全衛生教育は労働安全衛生法第59条の義務で、特定元方事業者が下請の教育を指導・援助すること(同法第30条第1項第4号、規則第638条)も法律上の義務です。新規入場者教育は、これらの義務を現場単位で具体化するものとして運用されています。
元請が自社で一括して新規入場者教育を行ってもよいですか?
実務では元請が教育の場を設けて一括で説明することも多く行われています。指針の考え方は「下請が自分の労働者に行い、元請は場所・資料の提供等で援助し、結果の報告を受けて把握する」なので、元請主催で行う場合も、下請の職長等が同席して自社の労働者の作業内容(⑥)を説明し、受講の結果を下請と元請の双方で把握できるようにしておくと、指針の役割分担と食い違いません。
動画を見せるだけで新規入場者教育を済ませてよいですか?
おすすめしません。eラーニング通達は、雇入れ時等の教育を動画等で行う場合に、受講した事実の確認、質問を受け付けて答える体制、実技は講師と同一場所での対面を求めています。また指針は、現場の特性を踏まえて職長等から周知するとしています。動画は共通部分の説明に使い、現場固有の情報の確認、質疑、実技は職長等が対面で行う組み合わせが基本です。
経験豊富な作業員なら教育を省略できますか?
雇入れ時等の教育については、労働安全衛生規則第35条第2項で、十分な知識・技能を持つと認められる労働者にはその事項の教育を省略できるとされています。ただし、混在作業の状況、危険箇所、避難の方法などはその現場に固有の情報なので、経験の長さに関係なく、現場に入る前に伝える必要があります。
新規入場者教育の記録は何年保存すればよいですか?
労働安全衛生規則第38条で記録の作成と3年間の保存が義務づけられているのは特別教育です。新規入場者教育の記録は、指針で元請への結果の報告が求められているため、受講者・日時・内容・実施者がわかる形で残し、保存期間は社内のルールで決めておきます。記録の項目の例は新規入場者教育の内容と進め方を参照してください。
まとめ
- 位置づけ:新規入場者教育は指針(通達)で示された現場ごとの教育。法律上の土台は、雇入れ時等の教育(労働安全衛生法第59条)と、特定元方事業者による教育の指導・援助(同法第30条第1項第4号、規則第638条)
- 役割分担:教育するのは雇っている下請、元請は場所・資料の提供等で援助し、実施状況の報告を受けて把握する
- 教える内容:指針は混在作業の状況、危険箇所、避難の方法など8項目を、現場の特性を踏まえて職長等から周知するとしている
- 動画で行うとき:eラーニング通達に沿って、法定の範囲を満たす内容、受講の確認、質問への対応、実技の対面実施をそろえる。現場固有の情報と質疑は対面で補う
出典・参考
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(昭和47年法律第57号)第15条(元方事業者・特定元方事業者の定義)、第29条(元方事業者の講ずべき措置等)、第30条第1項第4号(関係請負人が行う安全衛生教育に対する指導及び援助)、第59条第1項・第2項(雇入れ時・作業内容変更時の安全衛生教育)、第120条第1号(第59条第1項違反等は50万円以下の罰金)
https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057 - e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」(昭和47年労働省令第32号)第35条(雇入れ時等の教育の8項目、第2項の省略規定)、第38条(特別教育の記録の3年保存)、第638条(教育に対する指導及び援助=教育を行う場所の提供、教育に使用する資料の提供等)
https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032 - 厚生労働省「元方事業者による建設現場安全管理指針について」(平成7年4月21日 基発第267号の2)第2の9(新規入場者教育に対する元方事業者の援助と実施状況の把握)、第2の14(3)b(新たに作業に従事する労働者の資格・教育受講の有無の通知)、第2の14(8)(関係請負人による新規入場者教育の8項目と元方事業者への報告)、第3の8(関係請負人の安全管理状況等の評価で留意する事項=新規入場者教育の実施状況)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000509088.pdf - 厚生労働省「『インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について』の改正について」(令和8年9月2日 基安計発0902第1号ほか。別添に改正後の通達本文=令和3年1月25日 基安安発0125第2号ほか)基本的な考え方(対面と同等の教育効果の担保)、各手続き段階における留意事項(法定の科目の範囲・時間・講師要件、教材、受講事実の確認)、別表「雇入れ時等の教育」の要件
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001752584.pdf
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