経審のP点はAIで上がる?|審査項目と間接効果を整理
AIを導入しただけで、経審(経営事項審査:公共工事の入札に参加する建設業者が受ける審査)のP点(総合評定値)が上がることはありません。P点はX1・X2・Y・Z・Wの5項目で計算され、その中にAIやICTの導入を評価する項目は無いためです。 AIがP点に効くのは、資格取得の学習支援で技術職員の点数(Z)を増やす、ISO・エコアクション21の文書整備を進めて認証を取る(W8)、事務の時間を減らして利益を残す(Y・X2)といった「審査項目の中身を動かす」間接的な経路に限られます。
この記事では、経審の審査項目を国土交通省・関東地方整備局の資料で確認したうえで、AIが直接加点されない理由、間接的に効く経路と点数の根拠、「AIで経審が上がる」と勧められたときの確認ポイントを整理します。経審の加点対策全体は経営事項審査(経審)のP点を上げる7つの方法をあわせてご覧ください。
経審P点の計算式と審査項目
総合評定値Pは次の式で求めます。
P = 0.25×X1 + 0.15×X2 + 0.20×Y + 0.25×Z + 0.15×W
| 評価項目 | 記号 | ウエイト | 内容 |
|---|---|---|---|
| 完成工事高 | X1 | 25% | 業種別の年間平均完成工事高 |
| 自己資本額等 | X2 | 15% | 自己資本額、利払前税引前償却前利益 |
| 経営状況 | Y | 20% | 財務諸表に基づく8指標の分析 |
| 技術力 | Z | 25% | 技術職員数、元請完成工事高 |
| その他の審査項目(社会性等) | W | 15% | W1〜W8(担い手の育成・確保、営業年数、防災協定、法令遵守、経理、研究開発、建設機械、ISO等) |
Wの中身は次の8項目です。
| 項目 | 主な審査内容 |
|---|---|
| W1 建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組の状況 | 社会保険の加入(未加入は減点)、建退共、退職一時金・企業年金制度、法定外労災、若年技術者の育成・確保、知識及び技術又は技能の向上(CPD単位・技能者のレベルアップ)、ワーク・ライフ・バランスの認定、CCUS(建設キャリアアップシステム)による就業履歴の蓄積、「建設技能者を大切にする企業の自主宣言」 |
| W2 建設業の営業継続の状況 | 営業年数、民事再生法・会社更生法の適用の有無 |
| W3 防災活動への貢献の状況 | 防災協定の締結 |
| W4 法令遵守の状況 | 指示処分・営業停止処分(減点) |
| W5 建設業の経理の状況 | 監査の受審状況、公認会計士等の数 |
| W6 研究開発の状況 | 研究開発費(会計監査人設置会社のみ) |
| W7 建設機械の保有状況 | 対象建設機械の所有・リース台数 |
| W8 国又は国際標準化機構が定めた規格による認証又は登録の状況 | ISO9001、ISO14001、エコアクション21 |
どの項目も、完成工事高・財務数値・人数・認証や制度の有無といった決まった指標で採点されます。AIツールの契約数や活用度合いを評価する項目はありません。
AIで「直接加点される項目」は存在しない
現行の経審には、AI・ICT・建設DXの導入そのものを加点する審査項目はありません。 上の表のとおり、W1〜W8を含めてAIに関係する項目は無く、「AIを導入すればP点が上がる」と説明する情報があれば、どの審査項目のどの点数が変わるのかを確かめてください。
ICT施工などの取組は、発注者が個別工事ごとに付ける工事成績評定で評価される場合がありますが、これは経審の審査項目ではありません。工事成績評定の仕組みは工事成績評定とは|土木工事で良い点数を取るポイントで解説しています。
AI活用と経審の審査項目の対応表
AIが経審に効くのは、審査項目の「中身」を動かした場合だけです。項目ごとに、直接加点の有無と間接的に効く経路を整理しました。
| 審査項目 | AI導入による直接加点 | AIが間接的に効く経路 | 点数の根拠(経審の基準) |
|---|---|---|---|
| Z(技術職員) | なし | 資格試験の学習支援で合格者が増える | 1人あたり1級5点(監理技術者講習の受講者は6点)、監理技術者補佐4点、2級2点など |
| W1(知識及び技術又は技能の向上) | なし | 社内研修の資料づくりを効率化し、CPD(継続教育)の受講を続けやすくする | 技術者1人あたりのCPD単位数などから最大10点 |
| W8(ISO・エコアクション21) | なし | 認証に必要なマニュアル・記録様式の下書き | ISO9001 5点、ISO14001 5点、エコアクション21 3点(W8は最大10点) |
| W1(退職金・労災など) | なし | 規程の下書き(加入・導入そのものはAIでは代替できない) | 建退共、退職一時金・企業年金制度、法定外労災が各15点 |
| Y・X2(経営状況・利益) | なし | 事務作業の時間を減らし、残業代などの経費を抑える | 財務諸表の数値で評価(効果は会社ごとに異なる) |
| X1(完成工事高) | なし | 入札書類の作成時間を減らし、参加件数を増やす余地をつくる | 完成工事高そのもので評価 |
W1〜W8の点数はいずれも「素点」で、W評点は素点の合計に10×175÷200を乗じて求めます。各項目の詳しい点数は経審W点の上げ方を参照してください。
間接的に経審に効く4つの領域
1. Z(技術力):資格取得の学習支援
Zは技術職員の資格の構成でほぼ決まります。1人あたりの点数は、1級技術者5点(監理技術者資格者証の交付を受け、監理技術者講習を受講していれば6点)、監理技術者補佐4点、2級技術者2点、その他の技術者1点です。これを合計した「技術職員数値」を換算表に当てはめた点数がZ1で、Z=Z1×0.8+Z2(元請完成工事高の点数)×0.2で求めます。
| 資格 | 技術職員数値の点数(1人あたり) |
|---|---|
| 1級土木施工管理技士 | 5点(1級監理受講者は6点) |
| 2級土木施工管理技士(種別:土木) | 2点 |
| 技術士(建設部門など) | 5点(1級監理受講者は6点) |
AIは過去問の解説、苦手分野の洗い出し、模擬問題の作成といった学習支援に向いています。点数の「5点」「2点」はZ点に直接足されるのではなく、技術職員数値として換算表を通る点に注意してください。例えば技術職員数値37の会社で、2級技術者1人が1級に合格して監理技術者講習も受けると、技術職員数値は41になり、Z1は866から891へ25点上がります(関東地方整備局の換算表による計算。詳しくは経審の技術職員の点数|資格別の評価点一覧)。元請完成工事高の点数Z2が変わらなければ、Zは約20点(25×0.8)、Pは約5点(20×0.25)の上積みです。
2. W(社会性等):ISO・エコアクション21の文書整備とCPD
W8は、ISO9001(品質)5点、ISO14001(環境)5点、エコアクション21(環境省が定めた環境マネジメントの認証)3点で評価されます。ISO14001とエコアクション21を両方持っていても合算されず、W8は最大10点です。認証範囲に建設業が含まれていない場合や、一部の支店等に限られる場合は加点されません。
認証の取得そのものはAIでは代替できませんが、品質マニュアルや環境活動レポート、記録様式の下書きにはAIを使えます。下書きは、規格の要求事項と自社の実態に合っているかを人が確かめて仕上げます。
W1の「知識及び技術又は技能の向上に関する取組の状況」(最大10点)は、技術者が審査基準日以前1年間に取得したCPD単位数(1人30単位まで)と、技能者の能力評価のレベルアップの状況から計算します。AIで社内勉強会の資料を整えることは受講を続ける助けになりますが、評価されるのはCPD認定団体が発行する単位であり、AI研修の実施そのものではありません。 研修がCPD単位の対象になるかは、各CPD認定団体の扱いで確認してください。
3. Y・X2(経営状況・利益):事務時間の削減
Yは財務諸表に基づく8指標(純支払利息比率、負債回転期間、総資本売上総利益率、売上高経常利益率、自己資本対固定資産比率、自己資本比率、営業キャッシュ・フロー、利益剰余金)で評価されます。X2は自己資本額と利払前税引前償却前利益です。
施工計画書や週報、メールなどの事務作業をAIで短くできれば、残業代や外注費が減り、利益として残る分が増える可能性があります。ただし、どれだけ時間が減るかは業務と使い方によって大きく異なり、経審に反映されるのは決算の数値が変わった場合だけです。
4. 工事成績評定と受注を通じた効果
工事成績評定は経審の審査項目ではありませんが、発注者によっては入札参加資格の審査や総合評価落札方式で企業の工事成績を評価します(扱いは発注者ごとに異なるため、各発注者の入札参加資格審査要領・入札説明書で確認してください)。AIで施工計画書や安全関係書類の記載漏れを減らすことは、工事成績の評価項目に沿った書類づくりの助けになります。受注が増えれば、結果として完成工事高(X1)や元請完成工事高(Z2)に反映されます。
ISO・働き方改革対応でのAI活用
ISO9001・ISO14001・エコアクション21の文書整備
認証取得で手間がかかるのは、手順書・マニュアル・記録様式の整備です。AIに「土木工事会社のISO9001用の品質マニュアルの章立てを示してください」と依頼すれば、目次のたたき台を短時間で作れます。既存の社内文書をもとに、要求事項に照らして足りない章を洗い出す使い方もできます。費用や期間を抑えたい場合は、ISO14001より審査基準が少なく手続きも簡便とされるエコアクション21(W8で3点)も選択肢です。
働き方改革対応の規程整備
2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、就業規則・36協定・勤怠管理の見直しが必要になっています。条文の下書きをAIで作り、社会保険労務士に確認してもらう進め方は、手間を抑えつつ抜け漏れを防ぐ方法です。2024年問題の全体像は土木工事会社が知っておくべき2024年問題と具体的な対策をご覧ください。
社員教育としてのAI研修の位置づけ
AI研修は経審の直接の加点項目ではありません。そのうえで、人材教育への投資として位置づけると、次のような効果が期待できます。
| 視点 | 期待できる効果 |
|---|---|
| 資格取得 | 学習の効率化を通じて、技術職員の点数(Z)の底上げにつながる |
| 書類の品質 | 施工計画書や安全書類の記載漏れを減らす |
| 文書化 | ベテランの知識を文書に残し、引き継ぎをしやすくする |
| 採用・定着 | 事務負担の軽い職場づくりに役立つ |
土木工事の業務は、施工計画書・安全書類・打合簿などの業界固有の書式や、発注者とのやりとりの作法が多いため、一般的なオフィス向けのAI研修だけでは現場で使える水準になるまで時間がかかります。自社の書類を題材に練習することが、定着の近道です。
「AIで経審が上がる」と言われたときの確認チェックリスト
AIツールや研修の提案で経審への効果を説明されたら、次の点を確かめてください。
- □ どの審査項目(X1・X2・Y・Z・W1〜W8)のどの点数が変わるのか、具体的に説明されているか
- □ 「AI導入で加点」と書かれていないか(現行の経審にAI導入の審査項目は無い)
- □ Zへの効果として説明されている場合、資格の合格者が増えることが前提になっているか
- □ CPDへの効果として説明されている場合、その研修がCPD認定団体の単位の対象か確認したか
- □ ISO・エコアクション21への効果として説明されている場合、認証範囲に建設業が含まれる形で取得する計画か
- □ Y・X2への効果として説明されている場合、決算の数値(経費・利益)がどう変わるかを自社で見積もったか
- □ 経審の数値の確認に、審査行政庁(許可を受けた地方整備局・都道府県)の最新の手引きを使っているか
よくある質問
Q. AIを導入すると経審の点数は上がりますか。 A. 直接は上がりません。P点はX1・X2・Y・Z・Wの5項目で計算され、AIやICTの導入を評価する審査項目はありません。資格取得や認証取得、経費削減といった審査項目の中身が変わった場合にだけ、間接的に点数に反映されます。
Q. AI研修を受けるとCPDとしてW点に加点されますか。 A. 評価されるのは、CPD認定団体が発行する単位です(技術者1人あたり年30単位まで)。AI研修がCPD単位の対象になるかは各認定団体の扱いによるため、受講前に確認してください。
Q. 社員が1級土木施工管理技士に合格するとP点はどれくらい上がりますか。 A. 会社の技術職員の構成と元請完成工事高によって変わります。技術職員数値37の会社で2級技術者1人が1級に合格し監理技術者講習も受けた例では、Z1が25点上がり、Z2が変わらなければPは約5点の上積みです。
まとめ
- AI導入そのものを加点する経審の審査項目は無い(P=0.25×X1+0.15×X2+0.20×Y+0.25×Z+0.15×W)
- AIが効くのは、資格取得(Z)、ISO・エコアクション21の文書整備(W8)、CPDの受講継続(W1)、経費削減(Y・X2)など、審査項目の中身を動かす間接的な経路
- 技術職員の点数(1級5点、2級2点など)はZに直接足されるのではなく、技術職員数値として換算表を通る
- 「AIで経審が上がる」と言われたら、どの項目のどの点数が変わるのかを確かめる
中小の土木工事会社にとって、AIは経審対策の近道ではなく、書類づくりと人材育成を通じて経営の地力を上げる道具です。経審の点数そのものを上げる対策は、経審P点の上げ方、経審W点の上げ方、経審の技術職員の点数で項目ごとに解説しています。
出典・参考
- 国土交通省 関東地方整備局「経営事項審査 申請の手引き 別添資料【令和8年7月改正版】」(総合評定値Pの算式、Z(技術職員数及び元請完成工事高)の計算式と技術職員数値の換算表、〔5〕W(その他社会性等)のW1〜W8の点数、W1の知識及び技術又は技能の向上に関する取組の状況(CPD単位数)、W8の点数表)
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000949009.pdf - 国土交通省「経営事項審査の主な改正事項(令和5年1月1日・一部令和4年8月15日改正)」(W1への再編、W8へのエコアクション21の追加と配点、監理技術者講習受講者の加点期間)
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001585871.pdf - 国土交通省ウェブサイト(daiku-sodateru.mlit.go.jp)掲載「建設業の時間外労働の上限規制は2024年4月から! 建設業の働き方改革」(労働基準法に基づく上限規制の建設業への適用、36協定)
https://daiku-sodateru.mlit.go.jp/data/807e5605b217ca2cd09298d9a4a25c62.pdf
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