複数現場の工程管理をクラウド化する方法|ツールの選び方と確認項目
複数現場の工程管理をクラウド化するには、各現場の工程表と、重機・人員・段階確認・材料搬入などの予定をインターネット上の1か所にまとめ、誰がいつ更新するかを決めて運用します。公共土木工事では、発注者とのやり取りに使う情報共有システム(ASP:インターネット経由で使う受発注者間の書類共有サービスのこと)は別に決まっているため、社内で全現場を見渡すための工程管理ツールとは役割を分けて考えるのが基本です。 ツールを選ぶときは、画面の見やすさだけでなく、発注者に出す工程表や工期変更の協議資料を作りやすいか、雨天や休日を見込んだ工程を組みやすいか、権限やバックアップを管理できるかを確認します。
本記事では、公共土木工事で工程に関係する国のルール、社内ツールと情報共有システムの役割分担、運用ルールの決め方、ツール選定のチェックリストを整理します。制度や数値は、末尾の「出典・参考」に挙げた国土交通省・IPAの公表資料で確認したものです。導入による効果(手戻りの件数や重機の稼働率など)は会社ごとに条件が違うため、本記事では数値を示しません。
複数現場の工程管理をクラウド化する要点(一覧)
| 項目 | 内容 | 根拠・参考 |
|---|---|---|
| まとめる情報 | 各現場の工程表、重機・人員の配置予定、段階確認・立会・検査・材料搬入の日程 | 社内運用(本記事の整理) |
| 発注者に出す工程表 | 契約書第3条の工程表を作成し、監督職員を経由して発注者に提出 | 土木工事共通仕様書 3-1-1-2 |
| 施工計画書との関係 | 施工計画書に計画工程表と、法定休日・所定休日(週休二日)を記載 | 土木工事共通仕様書 1-1-1-6 |
| 発注者との情報共有 | 工事情報共有システム(ASP)を活用。システムの契約は受注者が行う | 土木工事共通仕様書 1-1-1-27 の10 |
| 工程に見込む日数 | 休日、準備期間、後片付け期間、降雨日・降雪・出水期などの作業不能日数 | 工期に関する基準 |
| 遅れが出たとき | 速やかに発注者に報告し、原因を分析して、受発注者で協議 | 工期に関する基準 |
| クラウドの安全な使い方 | 利用者の範囲、管理担当者、認証、バックアップ、利用終了時のデータ | IPA「クラウドサービス安全利用の手引き」 |
公共土木工事で工程に関係する国のルール
工程表の提出と施工計画書
国土交通省の土木工事共通仕様書(案)では、受注者は契約書第3条に規定する工程表を作成し、監督職員を経由して発注者に提出しなければならないとされています(3-1-1-2 工程表)。また、施工計画書には「計画工程表」と「法定休日・所定休日(週休二日の導入)」を記載する項目があります(1-1-1-6 施工計画書)。
社内のクラウドで工程を管理していても、発注者に出す工程表はこれらの決まりに沿って作る必要があります。ツールを選ぶときは、社内で更新している工程から、提出用の工程表(バーチャートなど)を作りやすいかを確認しておくと、二重入力を減らせます。工程表そのものの作り方は施工計画書に添付する工程表の作り方で解説しています。
工期変更の協議と履行報告
共通仕様書では、設計図書の変更、工事の一時中止、工期の延長などで工期変更の協議をするとき、受注者は必要な変更日数の算出根拠や変更工程表などを添付して監督職員と協議することとされています(1-1-1-19 工期変更)。また、受注者は契約書第11条に基づき工事履行報告書を監督職員に提出します(1-1-1-28 履行報告)。
工程の実績(いつ、どの作業が、なぜ遅れたか)を日々記録しておくと、変更日数の根拠や履行報告をまとめるときの材料になります。クラウドで工程を管理する価値の一つは、この記録を現場ごとにばらばらにせず残せることです。
週休二日と工期の考え方
共通仕様書では、受注者は週休二日に取り組み、その実施内容を監督職員に報告しなければならないとされています(1-1-1-29 週休二日の対応)。
中央建設業審議会が作成・勧告した「工期に関する基準」は、工期の設定や見積りで考慮する事項として、公共工事に従事する者の休日(週休2日に加え、祝日、年末年始及び夏季休暇)、労務・資機材の調達や現場事務所の設置などの準備期間、自主検査や清掃などを含む後片付け期間、降雨日・降雪・出水期などの作業不能日数を挙げています。国土交通省発注の土木工事では、施工に必要な実日数に雨休率を掛けた日数を「降雨日」とし、雨休率は地域ごとの数値のほか0.7を用いることもできると紹介されています。
複数現場の工程を1つの画面で見る目的は、こうした休日や作業不能日を見込んだうえで、重機や人員が特定の日に重ならないかを先に確かめることにあります。時間外労働の上限規制との関係は建設業の2024年問題で解説しています。
遅れが出たときの報告
工期に関する基準では、受注者は各工程に遅れを生じさせるような事象が生じた場合、速やかに発注者に報告し、遅れの原因を分析して、原因が発注者・受注者のどちらの責任か、不可抗力かを特定したうえで、受発注者間で協議して必要に応じて契約変更などを行うとしています。下請契約についても、前工程の遅れによる後工程へのしわ寄せを防ぐ取組を行うこととされています。
社内の工程管理ツールで遅れを早く見つけられれば、発注者への報告や協力会社との調整を早く始められます。どの程度の遅れで誰に報告するかは、会社として基準を決めておく項目です。
社内の工程管理ツールと情報共有システム(ASP)の役割分担
共通仕様書では、受注者は監督職員との間の情報を電子的に交換・共有して業務の効率化を図り、その際は工事情報共有システム(ASP)を活用し、最新版の「土木工事・業務の情報共有システム活用ガイドライン」に基づくこととされています。使うシステムは国の機能要件を満たすものとし、サービス提供者との契約は受注者が行います(1-1-1-27 施工管理 10. 工事情報共有化)。各社のシステムの機能要件への対応状況は、国土交通省の「電子納品に関する要領・基準」のサイトに掲載されています。
情報共有システムは1件の工事ごとに受発注者で書類をやり取りするための仕組みで、複数の現場を社内で見渡すことを目的にしたものではありません。役割を次のように分けると整理しやすくなります。
| 用途 | 社内の工程管理ツール | 発注者の情報共有システム(ASP) |
|---|---|---|
| 見る人 | 自社の工事部門、現場代理人、必要に応じて協力会社 | 受注者と監督職員・検査職員など |
| 対象 | 自社の全現場 | 契約した1件の工事 |
| 主な中身 | 全現場の工程、重機・人員の配置予定、社内の締め切り | 工事打合せ簿、段階確認書、工事履行報告書などの工事帳票 |
| 日程調整 | 社内の重機・人員の重なりの確認 | 【スケジュール管理機能】で発注者・現場技術員の予定を見て段階確認などの日程を決める |
| 正式な書類としての扱い | 社内資料 | 情報共有システムで作成・提出した工事帳票は、別途紙に出力して提出しない |
情報共有システム活用ガイドラインは、スケジュール管理機能を使うと発注者と現場技術員の予定が一元化され、受注者が段階確認や臨時の会議の予定を立てやすくなり、日程調整事務を効率化できると説明しています。さらに、グループウェアから出力したスケジュールデータ(iCalendar形式:予定を受け渡すための国際標準のファイル形式のこと)を取り込める機能が「望ましい機能」として挙げられています。社内ツールを選ぶときに、予定をiCalendar形式で出力できるかを確認しておくと、情報共有システムとの間で予定を受け渡せる可能性があります(対応は各システムの仕様で確認してください)。
なお、ガイドラインのフォルダ構成では、「工程管理」の下に「履行報告」(工事履行報告書)が置かれています。施工管理アプリ全般の選び方は施工管理アプリの比較も参考にしてください。
運用ルールの決め方
クラウドのツールは、入力されなければ全現場を見渡せません。導入の前に、次の項目を社内で決めておきます。数値(何日前、何時まで等)は会社の実情に合わせて決める項目で、国の基準で決まっているものではありません。
| 決めること | 決め方の例 |
|---|---|
| 更新する人 | 各現場の現場代理人など、工程に責任を持つ人を1人決める |
| 更新のタイミング | 毎日の終業時、朝礼前など、現場の流れに合う時点を決める |
| 入力の細かさ | 工種単位か作業単位かを会社でそろえる。現場ごとに違うと全体が比べられない |
| 必ず登録する予定 | 段階確認・立会・材料確認、検査、材料搬入、重機の搬入出、協力会社の入場 |
| 遅れの報告基準 | どの程度の遅れで、誰(工事部長、発注者、協力会社)に連絡するかを決める |
| 雨天・休日の扱い | 作業中止の判断時刻と、変更した工程を誰に知らせるかを決める |
| 協力会社への公開範囲 | 自社の担当工程だけを見られるようにするなど、見せる範囲を決める |
| 異動・退職・工事完了時 | アカウントや共有設定をいつ誰が止めるかを決める |
情報共有システム活用ガイドラインは、関係者が1人でも紙の提出を求めると効果が出ないこと、フォルダ構成を統一しないと監督・検査の効率化の効果が出ないことを指摘しています。社内のツールでも同じで、全現場が同じルールで入力することが前提になります。
クラウド工程管理ツールの選定チェックリスト
国土交通省の情報共有システム活用ガイドライン(利用環境の確認)と、IPA(情報処理推進機構)の「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」の確認項目を、複数現場の工程管理ツール選びに当てはめて、土木工事 業務改善Naviが整理したものです。
| No. | 確認すること | 確認の観点・参考 |
|---|---|---|
| 1 | 全現場の工程を1画面で比べられるか | 現場を横断して、同じ日に重機・人員が重ならないかを確認できるか |
| 2 | 重機・人員・協力会社の予定を工程と一緒に管理できるか | 工程と配置予定が別々のファイルだと二重管理になる |
| 3 | 段階確認・検査・材料搬入などの日程を登録できるか | 情報共有システムのスケジュール管理と役割を分けて使えるか |
| 4 | 提出用の工程表を作りやすいか | 共通仕様書 3-1-1-2 の工程表、施工計画書の計画工程表の作成に使えるか |
| 5 | 工程の変更履歴が残るか | 工期変更協議の変更日数の算出根拠や履行報告の材料になるか |
| 6 | 休日・雨天などの作業不能日を見込んだ工程を組めるか | 工期に関する基準が挙げる休日、準備・後片付け期間、作業不能日数 |
| 7 | 予定を外部の形式(iCalendar形式など)で出し入れできるか | 情報共有システム活用ガイドラインの「望ましい機能」との受け渡し |
| 8 | 現場の通信環境で使えるか | ガイドラインは、情報共有システムについて上り5Mbps以上の回線速度の確認を求めている。社内ツールでも現場の回線で試す |
| 9 | 対応OS・ブラウザ・端末が自社の環境に合うか | ガイドラインの利用環境の確認項目(OS、パソコン、WEBブラウザ) |
| 10 | 利用者ごとに権限を分けられるか | IPA手引き「利用者の範囲を決める」。協力会社は閲覧だけ等 |
| 11 | 2段階認証などの認証機能があるか | IPA手引き「利用者の認証を厳格に行う」。IDを共有しない |
| 12 | データを社内に取り出してバックアップできるか | IPA手引き「バックアップに責任を持つ」 |
| 13 | 利用をやめるときにデータを返してもらえるか | IPA手引き「利用終了時のデータを確保する」 |
| 14 | 事業者のセキュリティ対策と保存先の国・地域が公開されているか | IPA手引き「付帯するセキュリティ対策を確認する」「データ保存先の地理的所在地を確認する」 |
| 15 | 使い方を問い合わせられるサポートがあるか | ガイドラインの「サポート体制の確認」、IPA手引き「利用者サポートの体制を確認する」 |
| 16 | 社内で管理担当者を決められるか | IPA手引き「管理担当者を決める」 |
パスワードの決め方や2段階認証はパスワード管理の方法、二段階認証で解説しています。
導入の進め方
- 今の工程管理の流れを書き出す:工程表をどこで作り、誰がいつ更新し、誰に伝えているかを現場ごとに確認します。
- まとめる情報と運用ルールを決める:上の「運用ルールの決め方」の表を埋めます。
- 候補のツールを比べる:選定チェックリストで確認し、無料の試用期間があれば実際の現場の工程を入れてみます。
- 一部の現場で試す:入力の手間、現場の通信環境、協力会社への見せ方を確かめ、ルールを直します。
- 全現場に広げる:全現場が同じルールで入力していることを、工事部門の会議などで定期的に確認します。
よくある質問
情報共有システム(ASP)があれば、社内の工程管理ツールは不要ですか?
役割が違うため、目的によります。情報共有システムは受発注者間で工事帳票をやり取りする仕組みで、共通仕様書ではシステムの契約は受注者が行うとされています。ガイドラインでは、工事帳票の作成・発議・ワークフロー・書類管理などの機能の利用が必須とされています。自社の複数現場の重機・人員の配置を見渡す用途には、社内の工程管理の仕組みを別に用意するのが一般的です。
Excelの工程表をクラウドストレージで共有するだけでもよいですか?
更新する人とタイミング、入力の細かさがそろっていれば、全体を見渡す最初の一歩にはなります。ただし、現場ごとのファイルが分かれていると全現場を1画面で比べにくく、変更の履歴も残りにくくなります。選定チェックリストの1・2・5を満たせるかで判断してください。
雨で作業を中止したときは、工程をどう扱えばよいですか?
社内では、中止を判断する時刻と、変更した工程を誰に知らせるかを決めておきます。工期に関する基準では、降雨日などの作業不能日数を工期の設定で考慮することとされ、工程に遅れを生じさせる事象が生じた場合は速やかに発注者に報告し、受発注者で協議するとしています。
協力会社にも工程を見せてよいですか?
見せる範囲を決めたうえで共有するのが安全です。IPAの手引きは、必要な人だけが使えるよう利用者の範囲と権限を決めることを確認項目に挙げています。工事完了や契約終了の際は、共有設定を止める担当者を決めておきます。
まとめ
- クラウド化の中身:全現場の工程、重機・人員の配置、段階確認・検査・材料搬入の日程を1か所にまとめ、更新のルールを決めて運用する
- 国のルール:工程表は契約書第3条に基づき監督職員経由で提出、施工計画書に計画工程表と週休二日を記載、工期変更の協議には変更工程表などを添付
- 役割分担:発注者とのやり取りは情報共有システム(ASP)、社内で全現場を見渡すのは工程管理ツール
- 工程の組み方:工期に関する基準が挙げる休日、準備・後片付け期間、降雨などの作業不能日を見込む
- 選び方:選定チェックリストで、工程表の作りやすさ、変更履歴、権限、バックアップ、利用終了時のデータを確認する
出典・参考
- 国土交通省「土木工事共通仕様書(案)令和8年3月」第1編 第1章 第1節(1-1-1-2 用語の定義 25. 情報共有システム、1-1-1-6 施工計画書(計画工程表、法定休日・所定休日)、1-1-1-19 工期変更(変更日数の算出根拠、変更工程表)、1-1-1-27 施工管理 10. 工事情報共有化、1-1-1-28 履行報告、1-1-1-29 週休二日の対応)
https://www.mlit.go.jp/tec/r08dobokukoujikyoutsuusiyousyo/honbun01_syo01_setsu01.html - 国土交通省「土木工事共通仕様書(案)令和8年3月」第3編 第1章 第1節(3-1-1-2 工程表)
https://www.mlit.go.jp/tec/r08dobokukoujikyoutsuusiyousyo/honbun03_syo01_setsu01.html - 国土交通省「土木工事・業務の情報共有システム活用ガイドライン」令和6年3月(第1編 3. 情報共有システムの利用上の留意点、第2編 1. 情報共有システムの機能(必須とする機能)、2. 準備(通信回線の上り5Mbps以上、OS・ブラウザ・セキュリティ・サポート体制の確認)、3. スケジュール調整【スケジュール管理機能】(iCalendar形式の取込み)、表5 フォルダ構成(工程管理・履行報告))
https://www.mlit.go.jp/tec/content/001757574.pdf - 国土交通省「電子納品に関する要領・基準」情報共有システム提供者における機能要件対応状況関連資料
https://www.cals-ed.go.jp/jouhoukyouyuu_taiou/ - 国土交通省「工期に関する基準」(中央建設業審議会 令和6年3月27日改定)第1章(工期設定で考慮する休日・準備期間・後片付け期間・作業不能日数、工程の遅れの報告と協議、後工程へのしわ寄せの防止)、第2章(1)自然要因(雨休率)
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000190.html
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001735066.pdf - 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」2026年6月(中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版 付録。クラウドサービス安全利用チェックシートの15項目)
https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html
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